全国の音楽説法ファンの皆様、お待たせしました!僧侶兼打楽器奏者 福原泰明さんの音楽説法 第4回のタイトルは「主人公」。
なんかいつもとタイトルの雰囲気が違・・・えーっそうなの!?ということで早速お読み下さい。
「主人公」という言葉があります。その人物を中心に話が進んでいく、物語には欠かせない存在です。
この主人公、実は禅の言葉が元なんです。
中国の唐時代の禅僧、瑞巌師彦(ずいがんしげん)和尚は毎日こんな問いかけを自分自身にしていました。「おい、主人公よ」と。そしてその問いかけに自分自身で「はい」と答えます。それに続いて、色々な問いかけを自分にして、自分で返事をしていきます。
瑞「おい、主人公よ」
瑞「はい」
瑞「はっきりと目覚めているかね」
瑞「はい」
瑞「いつ、どんな時でも、他人に騙されるなよ」
瑞「はい」
・・・はたから見ているとただの危ない人ですね。
しかし、この「自分が問いかけをして自分で答える」、つまり「自分が主体となって問いかけ、同時に自分が客体となって答える」という主体と客体を瞬時に入れ替える、というプロセスが大事なのです。
「般若心経」という有名なお経に「色即是空(しきそくぜくう)空即是色(くうそくぜしき)」という言葉が出てきます。
「色即是空」は「色(自己)を離れて空(相手)になる」、逆に「空即是色」は「相手を離れて自己になる」ということ。つまり、自分の立場と相手の立場を交換し続けて両方を理解するということが禅のやり方なので、先ほどの自分への問いかけは、両方の立場の素早い入れ替わりを実践しているのです。
さて、これは音楽の演奏でも応用できると思います。
具体的には、練習の中でも自分への問いかけを実践してみて「演奏している自分」と「聴いている相手」の両方に立ってみるのです。
ただ何となく音を出すのではなく、色々その場に応じた問いかけを続けてみます。「ここのリズムはきちんと聴こえているか?」「一番聴かせたい音が明確に届いているか?」「自分の意図は伝わっているか?」などなど・・・。
冒頭の瑞巌和尚のように、「はい」か「Yes」かで答えられる問いかけだとシンプルで良いです。
問いかけをすれば答えざるを得なくなり、自然と自身を客体に置く事となります。主体のままでは気づかなかった事に目が向く事となるでしょう。
これは前回お話しした、「自己説明」の続きでもあります。「何故」を考え、自分自身に説明するテクニックの一つです。
自分自身に問いかける事で、もう一つ別のメリットが生まれます。それは、「音楽に集中できる事」です。練習でも本番でも演奏している時、私達の頭の中では様々なことが頭をよぎり、そしてすぐに消えていきます。時には全く演奏と関係ない夕飯のこととか、あるいは誰かに言われたこととか。その思考の連続が、音楽への集中を邪魔します。
ここで音楽に対して質問を続けると、他の思考が浮かぶ事無く、今起きている事をありのまま受け取ることができます。ゲシュタルト心理学では「気づきの連続体」と呼んでいる、起きていることに素直になり、現実を受け止める姿勢になります。
まとめると、主体と客体を交換し続けるために、自分自身に問いかけ、答える。その自問自答が「気づきの連続体」を生み、集中を生む。そういうサイクルが作れるのです。
常に自分に問いかけをしてみて、自分(演奏者)と相手(聴き手)の両方の立場に立ってみると、また新しい気づきが生まれるかもしれません。
こんな文章を書いておきながら、相手の立場に立つ事が極端に苦手な私は、いつも妻から「気が利かない人間だな」と毎日のように怒られています。なので私はこれ以上妻を閻魔大王にしないように、音楽以外の日常生活でもこの問いかけを応用できるよう頑張りたいと思います。
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今回も面白いお話が聞けましたね!
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※この記事の著作権は福原泰明氏に帰属します。
【福原泰明 プロフィール】
東京都出身。15歳より打楽器を始める。日本大学文理学部心理学科卒業。英国王立北音楽院修士課程修了。
在学中に学内奨学金を授与される。打楽器全般を大里みどり、シモン・レベッロ、エリザベス・ギリバー、ポール・パトリック、ティンパニをイアン・ライト、ラテンパーカッション及びセットドラムをデイヴ・ハッセルの各氏に師事。第11回イタリア国際打楽器コンクール(ヴァイブラフォンの部)ファイナリスト。
2011年7月、渡英と同時に、世界で最も名高いブラスバンド(金管バンド)の一つ、フェアリー・バンドに入団。同年10月より首席打楽器奏者を務める。同年12月にはブラスバンド専門ウェブサイトの4barsrest.comにて「2011年打楽器奏者ベスト5」の一人として取り上げられる。2012年には有名ブラスバンド専門雑誌「British Bandsman」にて表紙を飾り、ロング・インタビューが掲載されるのを始め、複数の音楽雑誌に取り上げらるなど、英国ブラスバンド界ではまだ数少なかった”打楽器ソリスト”として活動。その存在は、普段ブラスバンドの中ではスポットが当たりにくかった”打楽器”を”ソロ楽器”として認識させることとなる。2013年1月、「RNCM Festival of Brass」にて自身が委嘱したロドニー・ニュートン作曲の打楽器協奏曲「ザ・ゴールデン・アップルズ・オブ・ザ・サン」をフェアリー・バンドと共に世界初演し、満員の観客からスタンディング・オベーションを受け、ブラスバンド界の演奏者、指揮者、作曲家、編集者の各方面からも絶賛される。
同年10月よりレイランド・バンドに入団。打楽器ソロ曲のレパートリーを更に広げていく。同年11月、三大ブラスバンド・コンテストの一つ「Brass In Concert Championships」にてマリンバとフリューゲル・ホルンのデュオを演奏し、「本日の最高の演奏の一つ」(4barsrest.com)と評される。
2014年、世界で最も有名なブラスバンドと言われるブラック・ダイク・バンドに史上初の日本人正式メンバーとして入団。マリンバ・ソロイストとしてコンサートでソロを務める。
オランダの打楽器メーカー”マジェスティック・パーカッション”エンドーサー。
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